メールマガジン
分権時代の自治体職員
第129回2015.12.24
インタビュー:奈良県川上村 川上ing作戦担当の皆様(下)
移住してくる単身者に向けた村営住宅「単身者向けシェアハウス」。仕事を継続できない事業者と、仕事を求める村外の人とのマッチング。単身者にはそれに向いた住居も必要だ。住居も含めての総合マッチングである。
村民となった人たちの子育てはどう支援するのか。
稲継 最後になりましたけど、穴田さんに暮らし、子育て福祉についてお話をお伺いしたいと思います。

穴田 私たちのチームは名前のとおり、子育てのことから、お年寄りの福祉まで大きなくくりになっております。昨年度から活動を初めたばかりですが、まず、村内の子育て世代やいろんな取り組みをされている団体や村内企業に勤務している人、お年寄り、いろんなジャンルに分けてアンケートを実施、聞き取りをしました。同時に、村が行っている取り組み、支援策の洗い出し、この二つを同時に進めていきました。
福祉に関しては、本村は介護の認定率も低くて、元気なお年寄りが多いということが見えてきました。子育てという部分に関しては、子どもたちの学びと生活という二つに分けて、現在の支援策を洗い出しました。学びでは、小学生が23人、中学生が14人という、本当に少ない数で、先生方も例えば、その日の勉強がすごくしんどい児童がいたら、残って個別指導に当たるとか、そういう一人一人に行き届いた支援をしています。学力面では、去年の学力テストの結果などを見ても、本村は高い結果を得ることができたところです。子どもたちのアンケートを見ても、「学校は先生も一緒にいる子どもたちも、いい子らばかりなので楽しい、行くのが楽しい」というような意見でした。
ただ、生活面で見てみると、意外にもその子育て世代に対しての支援や、助成が少ないということに気づきました。いろいろな意見が出ましたが、今、取り組めることとして、助成を見直そう、拡充をしていこうということで、提案させてもらいました。
稲継 どういう助成ですか?
穴田 例えば、当たり前ですが、子どもが生まれると、おむつやミルクなどをそろえなくてはいけない。それにいくら費用がかかっているのだろうか。子育て中のお母さんに1日にどれだけおむつを替えるかなど、直接聞き取りをさせてもらい、1日ではこれくらい、1年では何枚使って、これくらい費用がかかる。そういうのを全部表に出して分析しました。これが結構、かかるのですよ。
稲継 いくらぐらいかかるんですか? 我が家ではもう20年以上前の話なので覚えておらず、想像がつかないのですが。
穴田 年間でざっと10万円ぐらいはかかっているんです。実際はもっとかかっていると思いますが、主要なものに対しては、それくらいかかります。経済的な負担の軽減というのは、一番の大きなメリットになるかなと。定住や移住を考えた時に、家や仕事のことは当然重要ですが、そういった経済的な負担の軽減という部分も大きいのではないかという視点です。出生したときから2歳の誕生日まで毎年10万円を子ども祝金という形で助成させてもらう、そういった提案をさせてもらいました。
もう一つは、人口分析ではこの村から高校進学すると同時に、家族ごとで出ていくというパターンが多くて、その流出をなんとか止めたいということです。例えば、家族は川上村にいても、子どもたちは通学できる都市部で一つの寮やハウスみたいなところで生活できないかという案も出ていました。他方、保護者からは、「通学費がかかるので、その支援があればありがたいな」という声がありました。そこで、「高校生の通学費補助というのを提案しよう」ということで、どこの高校には、定期券がいくらかかるのか、という統計もデータで取りまして、それを制度として提案し、今年度、住民福祉課で予算計上され事業化となりました。保護者からも「それは助かる」という意見をいただいたところです。
稲継 アンケート調査の結果から分かった現状分析で、「こういうところにお金がかかっているからこういうことをやろう」と若い人たちが提案して、子ども祝い金が条例化されたのですね。
穴田 そうです。他にも児童手当は15歳までですが、16歳から18歳までの子どもに対しての子育て応援手当とか。
伊藤 児童手当の延長ということです。
穴田 そうです。18歳までこの村で頑張って生活してくれているので。
伊藤 中学生までは国から児童手当というお金がありますが、村単独で18歳以下まで支援しているという形です。
稲継 若い子どもたちを対象、ターゲットにした助成金とかお祝金とか応援手当、通学費補助とか、川上ingスタート後にメニューが豊富になってきた。
穴田 そうですね。
稲継 若い人たちのアイデアをもとに、最終的には担当課が条例案を作ったのでしょうけども。
穴田 チームが検討して原課へ引き継ぐという感じです。
稲継 この、施策提案をする段階で何か苦労されたことはありましたか?


穴田 なんでも助成、助成でいいのかどうか、という意見はすごくありました。ただ、全部を助成するということではなくて、生活の面で援助ができたらということで、今に至りました。とにかく、高校進学時に家族で出てしまうという人口流出をどうにか食い止めたいのでいろんな意見が出ますが、それをすぐに原課の方に下ろして、政策としてやっていけるか、というところも検証しないといけません。斬新な案も出たのですけれども、それは今後引き続いて、できるかどうかの検証をしていこうと動いています。
今年度は、子育て助成として提案したことを、本当にこれでよかったかどうか、これを利用されている方がどういうふうに感じているか、どれくらいの人が利用してくれているかとか、その検証もしていきたいと思っています。
今年はもう一つ、福祉という面をメインに進めようとしています。そのときに去年もやったあちらの表を使って高齢者、障がい者、家族という3つに分け、現在の施策、そこから考えられる問題、新たな提案の3つに分けて、今、会議の中でメンバーが思うことを洗い出しているところです。
自分達の整理だけでなく、サポートしている家族さんにもう少し話を聞かせてもらおうか、社協の人にも意見をもらおうかとか、そういうことを言っているところです。前々回の会議ぐらいでまとめたときに、病院までの移動手段がこの村はバスで1時間に1本、電車も走っていないという話がありました。車いすを使う障がいの方は、そういうバスに乗れないので、どうにかできないかなという話が出ています。社協の方で車いすの貸し出しはしています。ただ、福祉車両の貸し出しはしておらず、福祉車両がないと、やはり不便だなということで、福祉車両と車いすと一緒に貸し出して、病院までの移動手段というだけでなく、例えば、一泊二日の家族旅行にも貸し出しとかできるようしたい。何歳になっても家族との思い出でつくってもらいたい、それができればと。
稲継 それはすごいですね。なかなかそこまで、発想はいかないですね。福祉車両の貸し出しとか介護タクシーとかそこまでは行くけど、旅行に行ってくださいという話は、ちょっとレベルが違う。昔の役所の発想からすると、そんなのは駄目だという話になるかもしれない。そこはすごく斬新ですよね。
穴田 それともう一つひっかかったのが、家族が突然、障がいをもったり介護が必要になったときに、どんな手続きをしたらいいのか分からない、どこにどういうことを相談していったらいいか分からない、ということです。ちょうど、住民聞き取りに行った村民の方から個人的に「こういう手続きをしたいと思うのですが、どこに言ったらいいか分からない」と聞かれました。正にこのことで、「ちょっと、こそっ、と教えてくれないかな」というような相談を受けたことがありました。
それもあって、もし何々になったらということをパンフレット1冊にまとめて、配布していれば、少しでも相談しやすくなるのかなと。そういったものを作れないかな、という二つの案が前の会議のときに出ています。もしもってどんな時?って、言いながら。
稲継 いっぱいある、かもしれない。
穴田 そうです。例えば、「介護認定を受けるとき」、「障がい者になったとき」、「蜂の巣ができたら」とか、そういう生活のもしももあるねと言いながら、これという案はもっと出てくると思うのですけれども。そういうことで今、進めようとしている段階です。
稲継 最初にもう、○○もしているけれども、検証もしようと思っていると。検証はすごく大事になると思うんですね。
穴田 そうですよね。
稲継 制度を作りっぱなしだったら、本当に役立っているかどうか分からないから、もう一度アンケート調査をするとさっきおっしゃっていた。私はすごくいいことだと思った。それから、こういうふうに掲示して分析をして、何がどうなっているのか、何が足りないのか、と考えながらアイデア出しをするというのは、非常に重要だなと思います。みんなの知恵を出し合うのに、どのようにしておられますか?
穴田 福祉課に限らず各課から7人が集まって議論しています。
稲継 そうですか。ありがとうございました。3つの班が動き出して、伊藤さん自身は、総括的な役割をやっておられるのですね?
伊藤 総括というより、3つのチームができてからは、僕もメンバーのつもりでいつも会議には入っています。
稲継 三つとも出ている?
伊藤 事務局は二人体制ですので、できるだけ、どちらかが入るようにしています。特に僕は仕事的には庁舎外へ出ていくことは少ないので、できるだけ入るようにして一緒に話をしている状況です。
稲継 三つとも出ておられて、何か感じられることはありますか?

伊藤 初めは、僕も意見を出していたのですが、今は、会議をリードすることもなくて、聞いているだけの状態になっています。目的をもって自主的にやってくれているのかなと思います。
仕事チームでは、実際に箸の製造をしたいとか、さらに別の一組も製造業に就職してくれた方は、川上ingツアーに参加してくれた方です。それをどんどん別の事業所にも伝えていこうかと考えています。地元の業者さん、村民の方にもそれを伝えていくように、役場ではこういうことをしていますよ、ということを伝えていく方法を考えています。そこから、私の事業所でもこんなのをしてほしい、と気軽に相談してくれたらなということを考え出しています。
去年から1年間だけでも3組10人が移住してくれました。この前も話をしたのですが、1,600分の3組というのはすごい、1,600分の1でもすごく大きいです。東京都で100万人の、10万人の1ではなくて、1,600分の1というのはすごく大きい。3年前からだと9組25人ですよ。
稲継 1,600の10って大きいですね。
伊藤 すごく大きいです。しかも従業員が足りないから募集してほしいという事業所に就職してくれたので......。初めはどんな効果が出るのかな、とかなり心配だったのですが、少しずつ出てきているのかな、と思います。その川上ingのツアーも若手が集まったときの雑談から生まれてきました。家と仕事をセットで紹介しようかということで、始めていったのがきっかけになります。
たしかに初めは家を建てて外から移住者を呼び込めばいいと、考えていました。しかし実はそうではなくて、今、川上に住んでくれている人を大切にしようと、考え方をゴロッと変えて動き始めました。その中で、仕事も調べ、アンケートし、実際になくなったら困るような仕事もあるね、ガソリンスタンドがなくなったら、移住者を呼び込むと言っているけど、それでは生活が不便ではないか、実際に村民が住めない村に、移住者を呼び込もうなんて言ってる場合ではないよ。今住んでくれている人を大事にしていったら、それが自然と外に伝わって、移住者も呼び込めるのではないかな、という思いで活動を始めたというのを、先に言うのを忘れておりました。
こういう形で始めていって、仕事も存続させていく。家の建設も地元の材を使って、地元の大工さんにお願いする。仕事も地元の仕事、業者さん、ガソリンスタンドやタクシーの会社もありますので、そこが元気であれば定住移住にもつながっていくのではないかという、共通の考えをみんなで持って25年の4月から始めていっています。
移住者を呼び込むというのが表に立っていますけど、基本的な考えとしては定住者を大切にするという共通認識で動いています。
稲継 外から見た場合に移住者、定住促進。運動は結構あちこちでやっているけれども、定住者を、すでに住んでいる人を大切にするという考えが前面に出てくることはあまりない。その発想の転換がすごく新鮮に感じました。
伊藤 僕自身も家を建てて、外から呼んできたらいいというのを思っていたのですが、こういう分析をしながら、みんなで議論をしていくうちに、だんだん考え方が変わっていきました。そういうことで、定住者を大事にしようということできています。
稲継 ありがとうございました。
今、私の手元にいくつかパンフレットがあるんですけれども、ざっと紹介してもらえませんでしょうか。
伊藤 川上の「住まいるネット事業」は空き家の紹介事業です。6~7年前には空き家を紹介する仕組みはなかったのですが、「川上村に住みたいのですが空き家を紹介してよ」という電話があり、それなら、村内の空き家を調査して、貸せるような仕組みを作りましょうということで、開始しています。〈住まいるネット〉
稲継 移住先の何とか邸というのは、家を使わなくなったから使ってちょうだいね、みたいなスペースのところに、村外の人たちが入っていったということ?
伊藤 はい、そうです。実際は生活スタイルがなじめなくて出て行かれた方もおります。データには村営住宅の分も含まれていると思いますが。
稲継 近隣だけじゃなくて、東京都とか、兵庫県とか静岡とか、長野県とかもありますね。皆さん、どうやって川上村を知り、川上村に移住することになったのでしょうか?

伊藤 田舎暮らしの本やネットで検索されたりしたんでしょうね。そのころ、空き家バンク制度は奈良県ではまだなかったと思います。川上村が第1号ぐらいかな。大阪にも近いですので、大阪から来られる方が多かったのかな。今は、近畿圏からが多い。近畿圏にターゲットを絞って広告を打つとか、PR活動をしているので。そうそう今年の1月には定住促進課ができましたので、そちらで主に定住促進施策をしてくれています。
ただ、空き家も即入居可が少なくなってきましたので、これからの展開も、家チームと一緒になって考えていかなくてはなりません。川上ingのチームは、実際に事業をするのではなくて、考え方や提案を担当課に渡すということになりますので、担当課と一緒に考えて行くというスタンスです。
次は、「おてったいさん制度」です。
稲継 「おてったいさん制度」、これは何ですか?
伊藤 これは方言で、お手伝いすることを、村では「おてったい」と言うんです。
稲継 分かります、私は関西の人間だから、なんとなく分かります。
伊藤 村長は日頃から「役場職員の仕事場は村内全体だ」と言っています。役場の席で待っているのではなく、職員が集落に出向いていって悩み事や、地区で何か活動をしかけるとか、あとは単純に「この保険をどうしたらいいの?」といった相談とか、26地区ありますが、それぞれ担当を決めて、2年間ごとに活動をしています。
稲継 今時の流行の言葉で言うと、それがいいかどうか分かりませんが、地方創生コンシェルジュ。地方創生で国が各省に窓口の人を置いて、出かけたりさせたりしているのですが、もっと早い時期から現場に据えておられる感じですね。
伊藤 今まででしたら、役場で待っていて村民に来てもらう形があり、それで仕事が成り立っていました。しかし、これからの行政はそれでは駄目だということで足を運んでということもあるし、村長は、各集落で魅力になるものを掘り起こして、その地区の村おこしをこれからしていこうという思いもあります。活動は去年から始めました。
稲継 地元に寄り添う活動ですよね。すごいな。
伊藤 次は、各集落で、ボランティア活動や地域イベントに対して上限50万円を補助するというものです。集落内の植栽や、盆踊りに活用されています。これも魅力の掘り起こしの一つです。
あとは「ちびっこ増やし隊」。
これは村主体ではなくて、川上村の子育て世代が集まって活動している団体です。小さい村ですが、案外、お父さんやお母さんが、気軽に集まって情報交換したり、交流したりという場は少ないですよね。ちびっこ増やし隊では、川上村での暮らしを楽しもうという目的で、赤ちゃんから高校生の親までがお花見会や学校でのバーベキューをして楽しんでいます。これもコミュニティの一つで、お母さんはもちろん子育てパンフレットも大切だが、直接先輩のお母さんのアドバイスや経験談はもっと大切だという話から企画されています。このイベントは毎回50人以上が参加して移住者家族の歓迎会もかねて大盛況です。昔あった地域の子ども会活動の村全体版ですかね。
辰巳 定期的にやっているのかな?
伊藤 はい。この前も音楽会をやっていました。
稲継 村役場の人もすごく頑張っておられるのですが、地元の人たち、先ほど神社に行ったら、宮司さんがいろいろな活動をやっておられると聞きました。最近も神社をビアガーデンにしたと聞いて僕はとてもびっくりしたんですけど。地元の人が皆何とか村を盛り上げようとしておられるのは、すごくいいなと思います。
伊藤 ビアガーデンはちょうど1週間前でしたね。
稲継 神社でビアガーデンをやるって発想って...すごく斬新だなと。
辰巳 宮司が活発な方で、「あそこには酒はたくさんあるけど、ビールはあまりないなあ」という話から開催したみたいです。何かのきっかけで人が集う場になればいいですよね。
伊藤 しかも飲んで、社務所で泊まってくれたらみたいな。宮司が「飲んで泊まってくれたらいいよ」って言って、村民が泊まったりして。
稲継 じゃあ、車の運転の心配もなくなる。このように、いろんな形のコミュニティができていくというのはすごくいいですよね。川上村の26の集落ごとには、コミュニティがあるのだろうけど、それを越えたようなのはなかなかできにくい中で、村役場の人やボランティアの人が......。
辰巳 結局は、小さな横のつながりがあってできているのかな、とは思いますよね。特に「ちびっこ増やし隊」のお母さん方は積極的で、僕らの時代は集落内で必ず同級生がいて歩いてや自転車で友達のところへ行けたけど、今は近所で遊ぶ友達がいない、ダムができて車でしか行けない、という状態になっているので、その中で、学校の外でもみんな集まって遊びたいな、そういう場所を作りたい、笑顔をつくりたいということで、こうやって動いて活動してくれています。
稲継 なるほど。ありがとうございました。
今日は、川上村にお邪魔して川上ing作戦を進めてこられた方々にお話をお伺いしたのですけれども、最後にこのメルマガを読んでくださっている全国の市町村職員の方にメッセージがありましたら、一言ずつ、よろしくお願いいたします。

伊藤 一応、川上ing作戦ということで、いろんな提案とか考えていますけど、それとは別に若手職員が集まって議論する。その議論したことを施策につなげていくということで、自分たちで勉強して、人材育成というか、みんなでレベルを高めていくという考えも持って活動をしているということです。この川上ing作戦がうまくいかなくても、うまくいかなかったらほかのことを考えたらいいので、そういう経験することも兼ねている事業になっているのかなと思います。
稲継 人材育成のツールにもなっているということですね。みんなが学ぶ一つの場所でもあるということですかね。
伊藤 そうですね。
稲継 ありがとうございます。

辰巳 この活動をさせてもらっていますが、課題や問題はどこの町村も共通していて、やはり田舎出身者は都会に何かを求めています。その中で、僕たちは田舎にしかない良さ、都市部にはない豊かな暮らしを前面に出していろんな方に来てもらって、住んでもらって、それによって川上村が豊かな村になってきたらいいなというふうに考えます。
稲継 ありがとうございます。それでは大辻さん。

大辻 そうですね、僕、個人的には役場に入って8年になりますが、水道業務しかしたことがないのです。川上ing以外ではなかなか政策的な形で中に入っていくというのがなかったので、かなり新鮮であり、いろんな勉強をさせてもらえる場でもあります。
今後、あと30年近くまだあるので、今はその中で自身の基礎的なものになっていけばなと思っています。この川上ing作戦自体も、今はこうやって分かれてやっていますけれども、何かゴールがあるわけでもなく、どんどん新たな課題が生まれてきて、考えて動いて繰り返していくものだと思うので、急がずゆっくりでもいいので、みんなでいろんな知恵を出しながら考えていけたらと思っています。

穴田 先ほど、まず定住者を大切にという思いをというのがありましたけれども、私たちチーム全員の意思として、「生まれた子どもの子育てする世代が楽しく子育てをできて、子どもたちはこの大自然の恵まれた環境の中で、生き生きと、のびのびと育っていけるように」、「お年寄りは、最期までここでいたいと思ってもらえるように」ということをコンセプトに、毎回、会議の中ではそういうことを心に置いて話し合おうということで、進めていっています。これからもそれを続けていきたいと思います。
稲継 ありがとうございます。伊藤さん、最後に一言、今日のインタビューを締めくくる形でいただけたらと思います。
伊藤 これからも、村に住んでくれている方が住み続けることができる施策を立案していきたいなと思います。それが、移住施策にもつながって、川上村を選んでくれる方も増えていったらな、と、これからも活動を続けていきたいなと思います。
稲継 ありがとうございました。今日は川上村にお邪魔して、職員の皆さんにお伺いしました。私も今後も心から応援していきたいと思っています。今日はどうもありがとうございました。
一同 ありがとうございました。

川上村役場 川上ing作戦担当者の皆さん
子育て世帯への支援は、おむつ代、高校生の通学定期代などきめ細かい実態調査に基づいた数字をはじき出している。大都市ではなかなかできない作業だ。国の制度に上積みする独自政策も、机上で近隣自治体・類似団体と比較して決めるのではなく、実際に個別の対象者に聞いて実態を調べる。住民福祉の増進(地方自治法1条の2)が存在目的である地方自治体にとっての政策立案の原点がここにある。
川上ing作戦をはじめて9世帯25人(うち9人が小学生以下)が移住し、事業所への就職もあった。「25人」は村の人口の1.5%。極めて大きい数字である。
これからの村の取り組みを見守っていきたい。
【取材後記】
取材終了後、予定にはありませんでしたが全体写真を撮りたいと希望したところ、あっという間に(全員ではありませんが)川上ingのチームの皆さんが役場の玄関に集まってくれました。行動はとても早いと感じました。皆、いい笑顔をしています。
川上村には取材の前日の夕刻入りました。9月初旬だったのでまだ明るかったです。
村が運営する「ホテル杉の湯」という温泉宿泊施設に泊まりました。部屋はすべて同じ向きに窓があり、目の前に吉野杉の緑の斜面が迫り、眼下にはダム湖の深い緑色が広がります。ウェブ上にはシングルの部屋がないのですが、電話で確認したところシングルの洋室もあり、たまたま空いていたので宿泊できました。露天風呂もまたこの景色を見ながら入浴できます。あわただしい数週間のあとだったので、久しぶりにゆっくりと時間が過ぎていきました。
取材当日、予定にはありませんでしたが(ひっそりと取材に訪れたつもりだったのですが)、ひょんなことから村長の栗山忠昭さんに会うことにもなりました。村に生まれ、村に育ち、村役場で長年行政に携わったあと、村長になった方です。川上村の歴史、最近取り組んでいること、今後進めていきたいことなど、おだやかな語り口ではあるものの、力強い思いを長時間にわたってお聞きする貴重な機会を得ました。
結局川上村には2泊しました。3日目には伊藤さんらに案内していただいて「森と水の源流館」を訪れました。川上村は吉野川・紀の川の源流の村。源流を通して自然と人々との関わりをともに考え、行動する取り組みを「源流学」と名付け、それへ来館者をいざなう施設となっています。日本一の降水量の大台ケ原などに降り注いだ雨は、森に蓄えられ、それが湧き水となってゆっくりと流れ出て、やがて一筋の流れとなり吉野川(紀の川)となって奈良盆地や和歌山平野に至る大地を潤しています。そのことを再認識するための施設となっています。
源流館の横には「御製碑」が建てられています。2014年11月、皇室3大行事の1つ「全国豊かな海づくり大会」の放流行事が川上村で開催され、天皇皇后両陛下並びに全国の漁業関係者が川上村を訪れました。行幸啓は県庁など自治体挙げての一大イベントです。行程表も分刻み、階段の上り下りには秒刻みの予定が組まれているとも聞きます。警備の人手も足らないことから他の県警からの応援も多数に上ります。それが、人口1600人弱の川上村が訪問地となったのですから、村役場はさぞかし大変なことだったと推測されます。
しかし行幸啓は大変なだけではありません。住民にとってはまたとない機会です。ダムに翻弄された村に両陛下がお見えになりました。両陛下のお姿を見ようと交通規制が始まる何時間も前から村民が皆沿道に集まったそうです。一生懸命旗を振るお年寄りが大勢いらっしゃいました。感極まってしゃがみ込んでお祈りするお年寄りもいたと聞きます。ダム建設を受け入れ、また、早くから水源地の村づくりを推進している川上村へのご褒美だと、昼食を食べに入った食堂のおかみさんはおっしゃっていました。
陛下が詠まれた歌碑には次のように記されていました。
『若きあまごと 卵もつあゆを 放ちけり 山間(やまあひ)深き 青き湖辺(うみべ)に』
いま、川上村はあらたな村づくりに向けて、若い人たちの力を総結集しようとしています。地域おこし協力隊として川上村に住む若者たちも様々な活動を行っています。村役場と二人三脚で川上村を盛り上げていってくれることを期待します。
レンタカーを運転してかなり上流の方まで行ってみました。かなり離れた集落にもまた村役場の人が訪れ「○○さん、元気でやっとるか?」、村人「役場さん、ちょっと聞いてくれるかい。」みたいな感じで会話が始まるそうです。地方自治の原点をこの村に見たように思います。
ぜひまた訪れたい村です。