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コラム

秋田大学教育文化学部地域文化学科 准教授 益満 環

2024.09.25

若者の活躍とローカルイノベーション

 私のゼミナールでは、マーケティング(モノが売れる仕組み)を研究しており、その研究活動の一環として、秋田県大仙市内の5つの酒蔵と大仙市農林部と連携し、「宵の星々(よいのほしぼし)」という名前の日本酒を造り、売り出しています。今回は、4年前からゼミナールで取り組んでいる秋田県大仙市での酒造りとローカルイノベーションについて述べたいと思います。

 酒どころとして有名な秋田県には、34社の酒蔵があります。県内で1年間に生産される日本酒は約500種類にものぼり、2019年の出荷量は全国5位、消費量は全国2位で、県民一人当たりに換算すると年間9リットル(一升瓶約5本)を飲んでいることになります。県内で造られた日本酒の約6割を県民が消費しており、秋田は日本酒の地産地消ができている県です。このうち大仙市内には7つの蔵元があり、そのうちの5つの酒蔵、合名会社鈴木酒造店:代表銘柄秀よし、刈穂酒造株式会社:代表銘柄刈穂、出羽鶴酒造株式会社:代表銘柄出羽鶴、金紋秋田酒造株式会社:代表銘柄山吹、有限会社奥田酒造店:代表銘柄千代禄と大仙市農林部、秋田大学益満ゼミナールが協力し、5銘柄を統一ラベル「宵の星々(よいのほしぼし)」という名前で令和3年から毎年1,000ケース、計5,000本を販売しています。連携の理由は2つあり、1つは新型コロナウイルス感染症の影響により、酒蔵の売上が以前の3~5割に減ってしまったことで売上げの回復に貢献すること、そして2つ目がプロモーションによる関係機関のブランド向上に寄与することです。

 学生達は一年を通して酒米の種まきから田植え、稲刈り、醸造、販売、PRまで、すべての酒造りの工程に参加しており、酒蔵訪問回数は30数回に及びます。特に学生達が力を入れたのが、日本酒と酒蔵のPRでテレビやラジオ、新聞など多くのメディアで日本酒を紹介した他、YouTubeやインスタグラムなどを活用し、日本酒や酒蔵の認知度の向上やイベントでの集客を図っています。その効果の一例として若者が東京から新幹線に乗って酒蔵まで来てお酒を買ってくれたり、インスタグラムの英語での紹介文を見た外国人から問い合わせがあるなど、県外・国外での認知度も徐々に広まっています。国内の事例をみてもここまで広く日本酒のマーケティング活動に携わっているゼミナールは無く、その努力が実り、大手通販サイト2社の吟醸酒部門で販売数が第1位になった他、大仙市のふるさと納税の返礼品にも採用され、酒米農家さんの所得が増えるなど喜びの声もありました。20236月に林芳正外務大臣(当時)に「宵の星々」を紹介する機会にも恵まれました。卒業生は、県内外の自治体や企業で海外向けのマーケティング担当となったり、SNSを活用した情報発信の部署に配属されるなど、即戦力として活躍しています。

 そもそも、なぜ、ここまで産学官連携がうまくいったのでしょうか? その答えの一つは「ローカルイノベーション」という考え方です。ローカルイノベーションとは、「地域にある様々な資源や人を結びつけて新たな価値を生み出すこと」です。日本語に訳すと地域創生や地域振興などですが、ローカルイノベーションが特に強調する点は、単に新しい技術やアイデアを導入するだけでなく、地域の人々が地域の活動に主体的・能動的に関わり、地域ならではの課題解決や新たな価値創造を目指すことです。「宵の星々」は5つの酒蔵、大仙市、秋田大学益満ゼミナールがローカルイノベーションの考えの下、まさに一体となって日本酒の新たな価値創造に取り組んだ一例と言えます。ローカルイノベーションを達成させるために、私たちが重要だと考えることは以下の2点です。1つ目が「今ある地域資源を有効活用する」ことです。今あるヒト・コト・モノなど、既存の地域資源や地域の特徴、長所に着目し、それらを活かす方法を考えることが地域活性化の近道です。その地域では当たり前のものも、他の地域、新しい世代から見ると新鮮で魅力的なものに映る可能性があります。独自のアイデンティティをとがらすことは、他地域との差別化にもつながります。そして、2つ目が「多くの関係者を誘い込む」ことです。人と人、組織と組織、地域と地域がそれぞれの立場や活動範囲を越えて連携すると効果が一層大きくなります。特にローカルではそれらが結びつき易く、大きな化学反応を起こす可能性を秘めています。一人ひとりが自分事として捉えられるよう、また、取り組みに積極的に参画してもらえるよう、暮らしや仕事、子育てなど生活に密着した領域から始めることや興味、得意なことを活かせる形で行うと効果が出やすいと考えます。

 最後に、来年も2月初旬に唯一無二の「宵の星々」が誕生します。来年度は大仙市誕生20周年の節目となることを記念して「冷酒の宵の星々」に挑戦します。「宵の星々」が地域ブランドとして益々認知され、大仙地域がさらに活性化するよう「ローカルイノベーション」に邁進したいと思います。今後の活動に是非ご注目ください。