メールマガジン
コラム
NPO法人子育てひろば全国連絡協議会 認定NPO法人びーのびーの 理事長 奥山千鶴子
2024.10.23
人生のスタート期を地域で支える
こども家庭庁創設、こども基本法、こども大綱等の制定が行われ、いよいよ本年度は、都道府県、市町村のこども計画として第3期の子ども・子育て支援事業計画策定の年となっています。今回は、特に就学前の子どもと家庭への支援について、私も検討過程から関わってきた「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」と「こども誰でも通園制度」についてお伝えしたいと思います。
筆者は、保育所、幼稚園、認定こども園等に就園する前の子どもと子育て家庭の交流の場である地域子育て支援拠点事業(地域子育て支援センター、子育てひろば等の通称で呼ばれています)を横浜市内で4か所運営しています。また、全国の事業者のためのネットワークづくりや研修のため、全国組織であるNPO法人子育てひろば全国連絡協議会を設立し、妊娠期を含め人生のスタート期から豊かに過ごせるよう地域で支え合う取り組みを応援してきました。そういった意味からも、「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」は大きな指針となる考え方であり、「こども誰でも通園制度」は、就労に限らず一定の子どもの保育が実現するという大きな社会変革だと感じています。
「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」ですが、ここでは「はじめの100か月の育ちビジョン」と略称で呼びます。これは、国や自治体などの関係者が、同じ方向に向かって具体的な施策に取り組む羅針盤として社会全体に広め、人々の行動を変えるきっかけにしたいという認識で、こども家庭庁が策定、普及啓発を行っています。
幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン (はじめの100か月の育ちビジョン)|こども家庭庁 (cfa.go.jp)
(URL:https://www.cfa.go.jp/policies/kodomo_sodachi/)
まずは、はじめの100か月とはどのような期間なのかですが、妊娠期から小学校1年生までを指しています。誕生前から義務教育のはじまりまでですね。この期間は、長い人生において人格の基盤を築く重要な時期というメッセージが込められています。この時期、子どもたちは身体、心、それを取り巻く環境の3つがすべて良い状態、幸せな状態であることが望ましいと考え、その状態を「ウェルビーイング」と呼んでいます。ウェルビーイングは、持続可能な開発目標(SDGs)の次の目標としても検討されている考え方の一つでもあり、こども大綱の中にも位置付けられています。
さて、子どもたちの身体、心、それを取り巻く環境の3つがすべて良い状態、幸せな状態であることは、親たちだけに責任を求めるものでしょうか。乳幼児の育ちには、「安心」と「挑戦」の繰り返しが大切であるとされています。安心の土台は、身近な大人が寄り添うことや、安心感をもたらす経験を繰り返すことで育まれるアタッチメント(愛着)ですが、これは親だけでなく保育者や子育て支援に関わる人すべてが持ち得るものです。周りの大人がその役割を果たすことで、豊かな遊びと体験など外の世界への挑戦が育まれるのです。子どものウェルビーイングとともに、保護者・養育者のウェルビーイングや成長の支援・応援をすることも盛り込まれました。子育てにかかわる制度やサービスなど支援や応援をうけることが当たり前の社会となり、「子どもとともに育っていく」という視点を重視しています。これからは、保護者・養育者だけでなく、地域社会全体で子どもを育てる時代であると打ち出しているのです。現在、普及のためのコーディネーター養成、普及動画づくりなども行っています。具体的には、社会全体で子どもを育むといった考え方の共有、企業人も含めた多世代のボランティア活動の普及、ファミリー・サポート・センター事業等への地域人材の活用など力を入れていければと考えています。
次に、こども誰でも通園制度についてです。本年度は全国118自治体で試行的に実施、8月30日現在で約700か所の事業者が取り組んでおり、令和8年度からは法令に基づきすべての自治体で実施できるよう検討が進んでいます。この制度の視点は、親の就労の有無にかぎらず子どもの育ちの観点から一定時間の保育を保障する点にあります。筆者の法人においても、自主事業として2,3歳児向けのグループ預かりを実施してきました。就労家庭ではありませんので自治体からの補助はありませんが、固定曜日、固定メンバーでの月3~4回のグループ預かりが、子どもの成長に果たす役割は大きいと感じてきました。保護者のニーズも様々で、幼稚園就園前に小グループでの同年齢の子ども同士のかかわりを体験させたかった、発達がゆっくりなので自分だけでなく一緒に様子をみてほしい、きょうだい児が生まれて外遊びに連れていけない等の理由が挙げられていました。全国で実施するためには、その理念の共有、実施における利用時間、人員配置・運営基準、安定的な運営の確保(補助単価等の設定)、実施にあたっての手引き等、多々検討事項はありますが、ぜひ良い形で実現できたらと考えています。
先日、卒論制作のために利用者のヒアリングを行っていた学生からうれしい報告を受けました。複数の利用者さんから、「地域子育て支援拠点があるので引っ越しできない、引っ越ししたくない」という言葉が聞かれたとのことでした。変わらず、人生のスタート期を地域で支える活動をみんなで続けていきたいと思った瞬間でした。