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コラム

大牟田市居住支援協議会 事務局長 牧嶋 誠吾

2024.11.27

暮らしのための住まい~福祉と住宅をつなぐ

<はじめに>

わがマチを見てみると、数十年前から戸建て住宅や木造アパートの空き家が目立つようになってきた。5年ごとに実施される住宅・土地統計調査でもわかるように、既に住宅数は世帯数を上回っており、近い将来、空き家大量発生時代を迎えると言われている。その背景は、人口減少や少子高齢化の進展が主な要因であり、今後は地方都市に限らず、大都市でも多くの民間住宅や公営住宅においても多くの空き家が発生することが想定される。また戦後、住宅難の時代に大量に供給された公営住宅標準設計による公的住宅の多くは、単身高齢世帯や高齢夫婦世帯が増えるなか、世帯構成や設備・建物の老朽化により、今の時代やニーズに合わなくなってきている。ここではこうした公営住宅と空き家の現状を踏まえて、住宅セーフティネットのあり方と居住支援について考えてみようと思う。

 

<公営住宅の現状(ハードとソフト)>

「公営住宅法」は、戦後の復興期に低額所得者を対象とする住宅の提供を目的に1951(昭和26)年に制定され、住宅難の解消(量の確保)に対応してきた。その後、量は一定程度確保されたことから、居住水準の向上や高齢化に対応したバリアフリー化、耐震化などの性能基準(質の向上)に取り組まれてきた。この取り組みは1966(昭和41)年からスタートした住宅建設計画法(1期五箇年)によって、国と都道府県が策定する整備計画で方向性が定められ、箱モノ中心の住宅政策(経済対策)で進められてきた。ゆえに市町村における住宅政策は、イコール公営住宅政策として認識され、今なお住宅が「社会保障」という概念として捉えられていない現状がある。

こうした背景もあり、公営住宅管理の担当者は言う。「公営住宅というハコを提供することが私たちの仕事だ」と・・・。たしかに、昭和~平成の時代までは応募者数も多く応募倍率も高かっただろう。しかしながら、令和の時代はどうだろうか。高齢化が進み、4階以上(高層階)の入居希望者は減少し、低層階を望む世帯が増え、さらに交通の便が良く、生活利便施設が近くにある立地性の高い団地を希望する。ただ、こうした好立地の住環境以外の団地では応募すらなく、随時募集と称し何とかして箱モノを埋めようとしている自治体も少なくない。加えて、こうした状況に追い打ちをかけたのが平成の合併による想定外の管理戸数増加である。立地面や老朽化、構造上の問題等により、今の時代に合っていない住宅が多数存在しているのだろう。

目を転じると、入居者のなかには家賃や共益費を滞納したり、入居者間でトラブル(精神障がい者による他入居者への迷惑行為、認知症高齢の母と同居する知的障がい者による迷惑行為など)を起こしたり、孤立・孤独死(身寄りのない高齢単身世帯)が発生している実態もある。その対応に苦慮している担当職員は、目の前の問題を取り除くために排除の論理が働き、公営住宅から退去させる手法を学ぶために訴訟手続きなどの研修を受けている現状ではないだろうか。目の前の問題を解決したい気持ちもわからないわけではない。私も課長として6年間、そうした対応を経験してきた。しかしながら、これまでのような「後手対応」を続けているかぎり、公営住宅の管理コストや疲弊する職員はますます増加すると感じた。団塊の世代の人たちが後期高齢者の仲間入りをする2025年以降、今以上に市民生活は複雑多様化し、そして高度化すると考えられ、こうした問題を未然に防ぐことの大切さや住宅セーフティネットとしての公営住宅のあり方、さらには市町村における住宅政策の必要性を改めて考えるきっかけとなった。

 

<公営住宅施策を包括する居住支援と住宅セーフティネット>

住宅というハコだけ見てみると、市内には空き家がたくさんある。空き家悉皆調査から約半数近くは軽微な改修で使えるフレッシュな空き家であることが判明した。この空き家に着目し、公営住宅に代わる住宅確保の仕組みとして、空き家利活用による住宅セーフティネットのあり方を検討し始めた。居住支援でいう住宅確保要配慮者は、公営住宅入居世帯層と属性が似ている。収入要件、同居親族要件、住宅困窮要件の3つの条件等で公営住宅に直接入居する仕組みだけではなく、空き家や民間賃貸住宅を最初のフィルターにかける方法で困窮世帯向けの住宅を確保できないかと考えた。

ところが、民間賃貸住宅では高齢者や障がい者に対して入居拒否が実際の問題として起きていた。なぜなら、認知症や孤独死といった入居中の問題や退去時に発生する様々な問題に直面していたからである。振り返ると入居時のハードルは違うものの、公営住宅の管理実態と同様のことが起きていたのである。公営住宅も民間賃貸住宅でも、入居後の見守りやトラブル対応、退去時の残置家財を適切に整理できる生活支援を民間サービスで補完することができれば、貸す側も安心して物件を提供することができる。

居住支援とは、住宅確保要配慮者に対して、入居支援(住宅確保)と入居後の生活支援を一体的に提供する行政サービスである。それぞれの専門性を活かし、住宅部局では空き家を「地域資源」と捉え、住宅を確保する。一方福祉部局では、入居後の「生活支援」を行う。これらを包括的に捉え、多職種による官民協働で住民の暮らしを支える仕組みが居住支援である。今の時代には福祉と住宅の重層的な関係が求められており、この居住支援体制の環境整備するのが市町村居住支援協議会である。大牟田市居住支援協議会は設立して11年目を迎えるが、まだまだ発展途上にある。住宅政策(社会保障)の一つとして居住支援を通した新たな住宅セーフティネットの再構築が求められている。

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<おわりに>

人口減少が進展する自治体は、今後行政サービスのたたみ方を考えざるを得ない状況を迎えるだろう。公営住宅の削減もその一例であり、公共サービスを肩代わりする地域や民間との「協働による仕組みづくり」が求められる。住まいは生活の基本であり、社会保障の一つとして私たちは取り組んでいる。今日の社会情勢の変化から、居住支援という概念が浸透し始め、令和6年5月に成立した改正住宅セーフティネット法が厚労省と国交省の共管となったことは言うまでもない。市町村は「県や国を向いて仕事をする主体性のない機関委任事務」や「よそのマチはどうかといった護送船団方式の地方自治」の時代は終わりつつある。住宅と福祉は密接かつ不可分の関係にあり、これからの住宅政策は、公営住宅がわがマチの住宅政策という発想から脱却し、市町村自らで作り上げた住宅政策に取り組む必要性がある。一方、福祉部局は、制度で決められた介護や障がいサービスを提供することが福祉ではない。制度と制度のすき間で苦しんでいる人たちもいる。自治とはわがマチの住民の福祉(暮らし)の増進を図ることが基本である。住民の「暮らし」を見て、住宅と福祉が連携し、地域の様々な主体と「協働」し、住民参加による地域独自のマチづくりが必要ではないだろうか。わがマチの10年先を見据えて・・・。